海外での風力発電設備の受注活動におけるリスク分析と対応
三菱重工業株式会社 長崎造船所 機械営業部風力発電輸出グループ長 木村 玲(きむら・れい)
機械営業部風力発電輸出グループ 唐島 智 (からしま・さとし)
1.はじめに
当社は、四半世紀以上にわたり、大型風力発電機(風車)の開発・販売を続けてきた。最近では日本でも風力発電の建設が活況となっているが、80年代から90年代においては日本国内全体での風力発電の設置数が年間数十台規模程度であったこともあり、当社はその拡販活動を海外、特に米国を中心に展開してきた。米国での風力発電は、その当初からIPP(独立系電力供給者)ビジネスとしての開発が進められたこともあり、さまざまな意味で、常に最先端の「シビア」な契約条件が盛り込まれてきた。機器の開発とともに手探りの状態で進みながら、顕在化してゆくさまざまなリスクに直面しつつも、どうにか市場とともに成長してきたという歴史である。本稿では、当社がこれまで風車の輸出を行ってきた中で直面したさまざまなリスクについて、特に北米市場を中心に、メーカーの立場での対応についてまとめてみたい。
2.市場環境
2005年末現在の全世界の風力発電導入量の累計は60,000MWにも達した。過去5年間の年間平均成長率は約26%であり、今後もほぼ同率での成長が見込まれるというから、あと4~5年で現在の倍の風力発電が導入されるという勢いである。これまで風力発電市場を牽引(けんいん)してきたのは欧州であり、世界市場の約8割を占めている。中でもドイツ・スペインは、年間数千MWの導入が続いてきた2大市場であった。欧州では、特に90年代以降の環境問題への関心の高まりから、また最近では、不安定な世界情勢を背景とした、エネルギーの安全保障の観点からも、自国内で調達できる再生可能エネルギー、その中で風力発電に対する期待が大きく、各国で独自の促進策を展開し、その成長を後押ししてきた。こうした環境の中で成長してきた風車業界は、その有力風車メーカーはほとんどが欧州に籍を置いており、巨大市場の成長とともに順調に業績を拡大してきた。
BTM Consultによれば、今後の風力発電市場の特徴は、引き続き欧州は最大の市場であり続けるが、北米・アジアの成長がめざましく、現在の欧州約70%、北米アジアともに約10%ずつという状況から、2015年は欧州約40%、北米約30%、アジア約20%と多極化が進むと見られている。各風車メーカーも市場の多極化に対応するため、販売・製造ネットワークの拡大を進めている。
一方で技術的には、風車の大型化が急速に進んでおり、5年前には、1台あたりの平均出力が1.0~1.5MWの風車が市場の主流であったものが、現在は2.0MW以上となり、数年以内には3.0MWレベルにまで大型化が進むと見られている。最新の開発機種としては5.0MW以上のものも実証試験が始まっている。
こうした市場の急拡大、多極化を背景として、風力発電市場に対する注目は更に増しており、これまで専業メーカーが主体であった風車業界に、数年前からGEやSIMENSといったメージャーの進出もあり、彼らが次第に市場を席巻しつつある。風車メーカーにとっては、市場の多極化、設備の拡大、大型機種開発への対応を短期間に行い、さらに大資本との激しい競争を生き抜くため、さらなる企業体力が求められており、サバイバルゲームの様相を呈している。
3.風力発電商談におけるリスク分析と対応
(1)市場リスク
前述のように、市場は総じて拡大傾向、仕向先の大半は先進国であるといえば、市場リスクはそれほど大きくないようにみえるが、実際は各国の風力発電に対する政策動向によって、短期的な戦略をその都度検討せねばならない。特に米国では、これが難しく、拡大傾向ではあるがその中身は決して安定的ではなかった。以下にそのメカニズムを簡単にご紹介したい。
風力発電は、性能向上および大型化により土地の単位面積当たりの理論発電量は年々伸びているが、最終的に経済性を左右するのは風である。一般的に風が強いといわれる場所であっても、年間平均風速は毎秒10m以下であり、風車の性能曲線から計算すると、これは年間を通じた設備利用率(定格出力に対する発電効率)が多くても40%程度という結果を意味する。よって、通常の水力・火力・原子力発電所等と比べると、発電単価がやや割高ということになる。昨今の燃料費高騰によって、風力発電の相対的な競争力は増しているとはいうものの、政策的な後押し、何らかの公的助成制度はどうしても必要なビジネスである。
前述のごとく世界的な環境問題への高まりから、風車を代表とした再生可能エネルギーへの公的助成制度は広く一般的になっており、それによって市場形成がなされている。日本では、風力発電所開発・建設費用の一部に補助金がでるが、風力発電の先進地域たる欧州では電力の買取単価の上乗せ(feed in tariff)を導入している場合が多い。米国の場合、連邦政府による優遇税制措置(PTC:Production Tax Credit(生産税控除)注1)と州政府によるRPS(Renewable Portfolio Standard:再生可能エネルギー利用割り当て基準)の両輪が、市場の原動力となっている。
- 注1
- Production Tax Credit:発電量に応じ、連邦法人税が控除されるもの、現在で約2¢/kWhでエスカレつき。
このPTCは時限立法であり、これまで何度も延長されながら現在に至っている。現在有効な法律では、2007年末運転開始までの発電設備のみが適用される。今後も引き続き延長されるであろうとの予測であり、米国市場はPTCを軸に引き続き堅調な伸びを示してゆくことと見られているが、過去にはこの延長が、図1の通り、結果的には連続して適用されているが、法律の失効から再発効まで期間が空くことが多かった。
このため、これまでの風力発電の開発はPTCの延長確定を様子見しながら進められてきた。広大な土地と豊富な風力資源、旺盛(おうせい)な電力需要と風力発電が伸びる条件をもっとも満たしている米国市場が、図2の通りジェットコースターのように、安定的に拡大していかなかった背景がここにある。空白期間と、期限切れの寸前の駆け込み需要に対応せねばならないことが、風車メーカーが米国市場を狙う上での最大のリスクとなっている。PTCの長期的(ないしは恒久的)な延長、もしくはPTCに代わる新たな促進策(たとえば連邦政府として強制力のあるRPS法の制定)の制定がいかにして行われるかが、風車メーカーの一番の関心事である。
(2)事業リスク
他の発電ビジネスと同様に、発電所を建設する上で考慮せねばならないリスク、すなわち土地の買収、各種許認可取得、環境対策、売電契約(長期売電契約(PPA)か電力市場で売るか)、発電ビジネスにおける資金収支等に関しては、風力発電においても注意すべき重要な要素であるが、風力発電に特有のものといえば、燃料契約のかわりに風況精査が必要なことであろう。こうした事業リスクは、その発電事業で利益をえる事業者・オーナーで負担するものではあるが、メーカーにとっては、案件の経済性、実現性は間接的に影響を受けることとなるので、プロジェクトの内容・推移には絶えず状況を確認してゆく必要がある。
一昔前には、採算性の取れない風力発電が途中で放棄され、残骸をさらすなどという悲しい歴史もあり、「まさに風任せ」というネガティブなイメージがつきまとい、風力発電は安定的な投資対象とは見られなかった。この原因は主に風況予測技術が未熟であったことに起因するといってよい。最近は各種予測技術、開発のための事前にすべきことが整備されており、予測結果と実際が大きく振れることはほとんどなくなった。過去には、近くの気象台のデーターのみを用いて開発を行っていた例もあったが、現在の風力発電事業者は、あらかじめ、サイト予定地に風向風速計を建て、数年間の風況データーを取得することが常識となった。
こうして得られたデーターを、シュミレーションソフトに入力、地形データー、配置、風車の性能曲線、その他環境条件等を設定すれば、かなり精度の高い経済性試算が可能。さらに、風況分析を専門とするコンサルタントの存在も数多く、二重三重のチェックを経たのちにビジネスモデルが作成される。風況解析専門コンサルは独自のノウハウによりリスク分析を行い、投資家や銀行からの信頼も厚い。
こうして、風力発電開発におけるリスクは、マネージできる範囲になってきており、昨今の燃料価格の高騰・為替リスクを伴う火力発電と比べても、むしろ相対的にリスクは小さいと考えられるようになってきた。
こうして、通常では大きなリスクを冒さない大手電力や投資銀行などが、競って風力発電の大規模開発を進めるようになり、現在は、旺盛な需要に対して、風車メーカーの供給量が追いついていない状況となっている。商談規模も大きくなり、かつその事業者の持つ複数案件を包括的に契約する、いわゆるバルクオーダーによって、メーカーを抑えてゆくスタイルの交渉が増えてきた。
風車メーカーにとっては、事業者側が複数案件のプロジェクトリスクをとり、これらをまとめて包括発注をするスタイルは、これまでのPTCリスク等による不安定な市場の読みから開放され、より計画的な事業展開が検討できるようになる。
(3)信用リスク
本項目以降は、個別の機器販売商談に関するリスクについてみていきたい。まずは、契約相手の信用リスクに対する対応であるが、エンロン・ショック以降、信用不安は依然として強く、特に米国での商取引においては、相手がたとえ大手優良企業であっても、事前にお客様の財務状況やレーティングを確認することが慣例となっている。契約上の支払保証を設定する場合において、たとえば財務状況やレーティングが思わしくない場合などでは、Stand-by LCなどを求めるとか、より信用力のあるスポンサーや親会社に、そのプロジェクトの履行保証を求めるといったことも考慮する必要がある。
風力発電の場合、風速計を建て、これを分析するということが開発初期段階の主なプロセスであるため、初期投資はそれほど大きくないことから、ノウハウはあるが財務力がそれほど大きくない中小ディベロッパーからの引き合いも多い。こうしたディベロッパーの場合、最終的には、スポンサー(プロジェクトオーナー)を見つけ、風力発電の開発をつづけるか、その風力発電開発に関する諸権利を他のプロジェクトオーナーへ売却することになるので、メーカーとしては、こうした形態の引き合いの場合は、スポンサーやプロジェクトオーナーへ履行保証や支払い保証などを求めることで、リスクヘッジを図ることになる。
入金条件に関しても、極力前倒しをお願いする必要がある。風力発電所建設のコスト(いわゆるEPCコスト)の約7割は風車およびタワー等の機器コストであるが、風車の輸出の場合、他の中量産品の場合と同様に、日本の工場で完成品をつくり、これを輸出するので、大半のコストが船積み前に発生することになるためである。所有権の移転も、入金完了まで留保することなどの契約条件でのリスクヘッジ方法を考える必要があるのだが、一方で、中量産品的とはいえ、工事が進み、タワーの上に風車が据え付けられてしまうと、これを容易に解体、差し押さえするということも難しいため、実際の運用には課題が残る。
(4)EPCリスク
前述のとおり、風力発電所の建設コストはEPCコスト全体の3割程度である。風力発電の建設自体は、大型火力発電所のような大きく複雑なプロセスを必要とされるものではなく、基礎・整地といった、土建工事を除けば、据付工事はクレーンにより組み上げることが主体である。しかしながら、風車据付工事は、そもそも風が吹かなければ発電が出来ない風車ではあるが、風が吹くと安全にクレーン作業が出来ないという、矛盾したリスクにさらされる。クレーンをいかに効率的に運用し、費用を抑えるかが発電所建設の成否を握るといっても過言ではないが、上記の通り、据付工事費用は全体に占める割合が小さいことから、もし強風により長期間建設がストップすると、その影響がダイレクトに効くことになる。特に規模の小さいプロジェクトでは影響が大きくなることになる。
1年間の中で、風が比較的弱い時期に建設工事を行うことはいうまでもないが、建設工期の設定も含めて、メーカーにとって見れば、これは一種の風況リスク、すなわちプロジェクトリスクと位置づけざるを得ない。機器供給契約に徹し、こうしたEPCリスクを極力とらない契約条件とする必要があると考えている。
![]() |
![]() |
(5)輸送リスク
これまでは大きな問題とはなっていなかったが、風車は年々大型化されてきており、輸送に関してのリスク検討が必要となってきた。羽の長さは40~50mを越え、風車本体も観光バスよりも大きくなり、重量も100トンを超えるようになっている。各国、各州で異なる輸送リミットを越える場面も出つつあり、事前のルートサーベイの重要性がますます大きくなっている。
注意すべきなのは、前述のような包括契約交渉の際、サイトが未確定のまま機器供給契約を締結するような場合であり、こうした包括契約の場合には仕向先港渡し条件(CIF port契約など)とするか、内陸輸送についての精算条項を必ずつけて合意することが必要とされる。
(6)インフレリスク
風力発電に限った話ではないが、やはり現在もっとも大きな懸念材料は、インフレリスクである。
最近の資材費高騰・燃料費高騰といったインフレリスクについては、昨今のそれは数カ月後の価格までもがまったく予測できないほどの異常なものである。すでに素材価格はこの数年間で倍近くとなっており、この傾向は今しばらく続くと見られている。企業努力の範囲はすでに大きく超えており、風車の価格そのものに転化せざるを得ない状況であることはご理解いただきたいのだが、更に今後の上昇率もまったく見えず、お客様からの売価低減のプレッシャーとの狭間で、非常に厳しい状況であるのが現実である。長期包括契約を締結することは、安定的な事業計画をたてるために、積極的に推進してゆきたい反面、このような売価・コスト両面のリスクの増大が、現在のメーカーとしての頭痛の種となっている。
複数年にまたがる包括契約を締結する際には、価格調整式での売価調整規定を条件付で申し出ている。
(7)技術リスク
風況調査・分析や配置計画は経済性を左右するものでもあり、前述の通りこれらは事業リスクと判断し、風車メーカーはこれを負わないことで進めることが通常である。しかし、メーカーとして事業リスクには立ち入らない方針で臨んだとしても、メーカーとして負うべき瑕疵担保や性能に関しては、その風況や配置計画にも大きく影響を受けるので、注意を要する。
風車の世界では認証制度が発達している。この認証制度のもとでは、風の強さや質(乱れ度など)によってクラスが設定され、それぞれのクラスに応じた設計条件が規定される。各メーカーはこの設計条件にしたがって開発・設計を行い、認証機関からの「この風車はクラス○向けである」旨の認証(CERTIFICATE)を得るものである。
風車を販売する場合には、お客様により提示されたクラス、すなわち、「クラス○の風車を○○台」という引き合い条件に基づき、プロポーザルを作成することになる。風況の調査・分析および、配置計画についてはお客様の責任で実施してもらい、そのサイトにはどのクラスの風車が適しているかの判断はお客様にゆだねるということである。
しかしながら、風車に対する風の影響は複雑であり、地形(近くに山、川、ビルかあるか等)や、風車の配置によっても、個々の風車がお互いに及ぼしあう影響が変化するため、メーカーとしては、単にお客様からの条件が「クラス○」であるということだけでプロポーザルを纏めることは注意が必要である。将来問題が起こる可能性もあるため、これが、妥当であるのか、自衛措置として事前に風況・地形データーや配置計画図を入手し、確認をする必要がある。将来問題が発生したときに「お客様からの条件が間違っていた」と主張することは簡単ではあるが、末永く当社の製品を問題なく使っていただくためにも、必ず商談ごとに確認するようにしている。
(8)カントリーリスク
最後にカントリーリスクであるが、現在の風車市場は大半が先進国であったため、これまで大きな問題となってこなかったといえよう。しかしながら、市場動向の項でも触れたとおり、今後は、欧州・米州の枠を越え拡大してゆくと見られている。残念ながら現段階では、インド・中国を除けば、風力発電開発のための助成制度が十分とは言えず、開発が進んでいない。インドでは、風力発電への出資者に対して優遇税制措置があり、これが市場を牽引している。このため、2005年には、1,200MW以上の新設があり、世界第4位の巨大市場に成長した。中国では2006年1月より、再生可能エネルギー法が施行され、風力発電の開発が活発化している。国家目標として、現在の累計が1,200MWあまりであるものを、2010年には5,000MW、2020年までには30,000MWの風力発電設備を設置しようとしている。この流れを受けて、大手風車メーカーが相次いで中国進出を決めている。彼らはこの巨大な潜在市場である中国のみならず、アジア全体あるいは米国市場もにらんだ生産拠点としての位置づけで進出しているものと見られている。
風力発電は、これから成長しようという国々にとって、その電力供給を補うための手段として、建設期間が比較的短く、燃料の輸入に頼る必要がなく、環境負荷が低く注目すべき電源である。更に京都メカニズムによるCDMもこれを後押しすることになろう。すでに、インド・中国以外でも再生可能エネルギーに対する優遇政策の議論が進んでおり、徐々に市場形成への準備が整いつつある。
こうした国々への進出については、制度金融の活用を軸に展開、工期が比較的短いことから、貿易保険もリスクヘッジのための有効な手段として活用しつつ展開を考えてゆくことが必要と考えている。
4.結語
風力発電の拡販においては、量産品的製品でありながら、受注品的販売活動を展開せねばならないという難しさがある。本文では簡単にしか触れていないが、技術開発の面でも風車の大型化スピードが非常に早く、新機種の技術リスクをつぶしながら、市場を失わないように絶えず将来の市場動向をつかんで開発を続けてゆくことを宿命付けられた事業であり、まさに量産品の世界であるが、本文でみてきたリスクについては、そのほとんどの項目は受注品的大型商談のそれと同じといってもよい。
風車は、比較的小額で設備も単純、かつ短期間に開発が出来るというメリットゆえに、(1)発電設備でありながら「発電のプロ」が必ずしも実施主体ではないことが多く、(2)投資目的としてIPPが組成しやすいが、(3)「自然相手である」という不確定なリスクをどうマネージするか、(4)各国の風力発電に対する助成制度をどう活用するか、等々といった特有の要素が複雑に絡み、契約書も自然と分厚くなってゆく。リスクを的確にかつスピーディに見極めことが重要であり、日々格闘の毎日が続いている。◆

