#003 HO 杉本剛章 まだまだ、これから

加入2年目の昨シーズンからバイスキャプテンを務める。年上の選手にも率直に意見する真摯な姿勢と、周囲に気を配る細やかさ、そして愛嬌のある容姿を備えた稀有な存在。 時々口を突く関西弁をまじえながら、やわらかな口調で話してくれた、これまで、今、そしてこれから。
親子鷹や兄弟選手が多いラグビー界において、その中でも輝きを放つ“杉本兄弟”の長男。次男・晃一はトップリーグ・トヨタ自動車ヴェルブリッツの一員であり昨年度のATQプロジェクト()のメンバー、三男・博昭はU20日本代表に選出され、兄たちの母校である明大で活躍する。全員がフォワードという3兄弟の中で、長兄は、スクラムの舵取り、ラインアウトのスローイングと、とりわけセットプレーの要となるフッカーとしてグラウンドを駆けている。

自分が長男で、トヨタにいるのが次男、今メイジにいるのが三男です。3人とも小学校からラグビーを始めて、コウダイ(大阪工業大学高校)、メイジ(明治大学)です。大阪では亀田3兄弟に匹敵するくらい有名ですよ(笑)。この前のトヨタ戦で次男と初めて試合しました。コンタクトする場面もなかったけど、あんまり意識はしなかったですね。兄弟でラグビーの話はほとんどしません。次男とは大学で一緒だったから、もちろん練習のときは話しましたけど、実家で『あの時どうやった?』とか話したりはしないですね。

練習中・試合中を問わず大きな声で周囲を鼓舞する杉本。しかし幼い頃は、その姿からは想像もつかない「ひっそりと暮らすような子(笑)」だったという。現在へ向かう道のスタートを示してくれたのは、今も共に汗を流す親友の存在。高校・大学と名門チームの主力選手としてプレーしてきた杉本のラグビー人生は、社会人3年目の今年、「毎日『よし、やったろ』って思える」という充実の年を迎えている。

5月に行なわれたダイナボアーズフェスタ「ラインアウトに挑戦!」の コーナーで。
親しみやすい人柄は子どもたちからも大人気

小さい頃は太ってて、クラスでもめっちゃ静かでした。喘息で体も弱かったんですよ。ラグビーを始める前にやってたものは…そろばん(笑)。喘息はラグビーやりだして、体力がついて治りました。今チームにいる健策が保育園からずっと一緒なんですけど、大阪って中学にラグビー部があって、小5くらいからみんなで『中学行ったらラグビーやろう』って言ってたんです。今東芝でセンターしてる高山国哲が同級生で、もともとラグビーと空手をやってて、一緒の道場で空手をしてた健策をラグビーに誘って、健策が自分を『中学で始めるなら、今からやろうぜ』って誘ってくれて、小5で始めました。

小学校の頃は、健策とかクニのほうが全然、学校の中でも目立つ感じでした。でもラグビーを始めてからは、自分もみんなをひっぱる的なことをやるようになって…中学校はバイスで、高校はキャプテンでした。 花園は2年と3年で出て、どっちもベスト4。2年の時は、もともとはフッカーのリザーブだったんですけど…全国大会の府予選の決勝でケガ人が出て、監督がいきなり『杉本いけ。ロックやれ』って。 『えっ?』って思ったんですけど、『できひんのか?』って聞かれて、出たかったから『いや、できます』って(笑)。そしたらすぐ別の選手がケガして、次は『杉本、エイトやれ』って言われて(笑)…それまでプロップ、フッカーの練習しかしてなくて、ロックもエイトも試合で初めてやりました(笑)。 そこから全国大会はずっとナンバーエイトで出てました。3年でキャプテンになった時にフッカーに戻って、それからはフッカーです。

メイジから2年前にこの会社に入って…メイジって練習でスクラムとコンタクトしかしないんですよ。でもこのチームに入った当時は、コンタクトもコンタクトバックでばかりやってたから、『社会人ってこんな感じなんかな?』ってちょっと驚きました。『ラグビーはコンタクトバックじゃなくて、体と体のぶつかり合いなのに』って思ってた。でもそう思いながらも、自分もちょっとその感じに染まってました。個人的にも一昨年、去年って、いい成績が残せてない。やっぱりこの2年間、自分自身甘かったと思います。でもそれも今だから思えることで、その時は気づいてなかった。コーチによって方針はいろいろあると思いますけど、自分にとっては今みたいなほうがいいのかなって思います。今年は練習中のコンタクトも激しいから毎日きついですけど、充実したトレーニングができてます。

6月に入って、ダイナボアーズは6日のトヨタ戦、13日のNTTコミュニケーションズ戦、20日の東京ガス戦の3連戦を戦った。 自分たちのやってきたことを表せた試合、空回りした試合…まだまだ波は大きいものの、今年のダイナボアーズに通りつつある芯を感じさせる春シーズンとなった。 そしてここで得た手応えと課題を携えて、9月のシーズン開幕に向けた“勝負”の夏がやってくる。

ケガで出遅れた春シーズンだったが、6月6日のトヨタ戦で復帰。NTTコム戦(写真)、東京ガス戦と先発した

トヨタとの試合、前半はずーーっと攻められてました…でもディフェンスシステムは春シーズンを通して少しずつ良くなってきてる実感があります。 この試合も後半、自分たちのやろうとしていることが出せた時は、すごくいい流れになってた。接点の激しさも、トヨタのほうが上でしたけど、かけ離れてるっていうほどではないと思います。 でもやっぱり、スコアがトヨタとの差を表していて、ウチにはまだまだ足りないものがいっぱいあるってこと。自分が一番感じたのは、プレーの精度の違いです。 トヨタは、ここぞという時のパスや、ボールキャリアの動き、クリーンアウトとか…いろんなとこの精度が高かったと思います。 でも頑張れば、縮められる点差だと思うんですよ。そのために必要なのは1人1人のプレーに対する責任感や意識。 ポジションごとの1人1人の役割とか、1対1のタックルであったり、アタックで負けないこととか、上手に言えませんが、そういうところだと思います。

試合で流れを掴むのに、スクラムとかラインアウトってすごく大事なんですけど…NTTの時は、そこで自分がミスしてしまってセットプレーでしっかり取れませんでした。だから前半のメンバーは自分たちのやりたいことが全然できなかったと思うんです。でも、後半はラインアウトもとれて、練習でやってきたことができた。それをホンマ80分続けられれば…。 ディフェンスでも、去年までも絶対みんな『抜かれたらあかん』ていう気持ちで守ってたと思うんですけど、今年のほうがたぶん、1人1人のそういう気持ちは強いはずです。

理想のチーム像を尋ねると、「そういうの、あんまり考えたことないですね…」としばし無言になった後、「あ。1つありました」と、思い出したように語り始めた。そしてその像は、ただ心に描くイメージではなく、かつてこのグラウンドで育まれた団結であり、可能性が花開いた先にある、自分たち自身の未来でもある。

ラグビーはスポーツだから、試合に出る人数は決まってて…出ない選手からしたら、一生懸命練習したのに、その成果を発揮する舞台に立てないっていうことは、やっぱり悔しいわけで。 口には出さなくても、1人1人にいろんな思いがあると思うんです。でもそういうのも超えるというか…毎日お互いに必死で競い合って、メンバーが決まって、 出られない選手もいて…でも1つのチームとして『俺はお前に絶対負けてないと思うけど、お前が出ると決まったからには、必死で応援する』っていう感じになれたら…全員で勝ちにいくっていうか、 みんなの気持ちがひとつになれたらすごくいいと思います。

自分はこのチームに入る前だったからわからないんですけど…トップリーグ上がる時の、近鉄とやった試合、知ってますか? ホンマみんなが1つになって、すごかったらしいんですよ。 試合のビデオ撮る役の人が、撮るの忘れて応援しちゃったって。そのくらいみんなが1つになってたってことだと思う。自分の仕事忘れるのはあかんかもしれないけど(笑)、忘れて応援しちゃったっていう、 そういうのがすごく、いいチームだなと思いました。そのくらい、またみんなが1つになって戦えればいいと思います。

でも今もすごく、チームがひとつになってきてるのを感じるんです。この2年間なかったもの、高岩監督が示してくれる方針とか、“勝負”っていうスローガンがあって、 その同じ方向に向かって進んでる感じ…みんなで1つのことに向かって突き進んでる感じがひしひしと伝わってくるし、自分もそれに参加してるんだなって感じることが、すごく嬉しい。 嬉しいっていうか、今がすごく、楽しいです。

そして満ちてきたものがあるからこそ、足りないものにも気づき始めた。


トレードマークはボウズ頭。
「昔はメガネでセンター分けだったんですよ(笑)。高校に入って初めはボウズにしなくちゃいけなくて。そこからずっとボウズです」

今もみんな、真面目にやって、めっちゃ必死で、気合も入ってるんですけど…でも試合の時とか、ミスが少し増えたら静かになってしまうし、 ちょっと一歩下がった感じがするっていうか…黙々と自分の仕事をするのもいいんですけど、でも何かが足りない気がしてて。自分が思うには、その足りないものが自信だと思うんですよ。 『俺らはどこにも負けへんねんぞ』っていう自信を持って試合に臨んだほうがいいと思うんです。

変な過信はあかんけど、例えば『これだけコンタクト練習してんねんから、コンタクトは絶対負けへんぞ』とか、そうやって自信をもっていいと思う。 今はまだみんなにそういう自信がなくて…これから夏合宿に向けて練習していって、合宿でいいゲームができれば、みんな自信持ってシーズンに臨めるんじゃないかなって思う。 それでたぶんシーズンに入って1戦1戦勝っていけば、もっと自信がついてくると思います。これからですね。

9月に開幕するトップイースト。シーズンの開幕を心待ちにしながら、
それまでの自分自身の、1つのチームとしてのダイナボアーズの成長に思いを馳せる。
そしてそのために必要なこと、日々の“勝負”の大切さも、ちゃんと胸に刻んでいる。

「開幕まであと3ヶ月くらい。
それしかないですけど、自分たちはもっともっと伸びるチームやと思うんで、自分たちがどういうチームになれるのかなって、すごい楽しみです。
そこに向けて、これからどんだけできるか、です。
自分自身も、去年はリザーブで、やっぱり自分の中では悔しい思いがあったんで…
今年はスタートから試合にでてチームをひっぱっていくために頑張ってるところです。
ケガでちょっと出遅れたんで、その分、これから頑張らないと。
去年も合宿が終わってシーズンが近づくにつれて、『早くシーズン始まってほしい!』って思ってたんですよ。
でも今年はもっとそういう気持ちになると思います。
自信を持ってシーズンを迎えられるように…そのためには練習あるのみです」

*ATQプロジェクト=日本ラグビー協会が2011年ワールドカップに向けて発足させた若手選手の育成プロジェクト

PROFILE
すぎもと・よしふみ/生年月日:1984年6月24日/身長・体重:173cm・102kg/出身:大阪府/経歴:布施ラグビースクール→東生野中学→大阪工業大学高校(現・常翔学園高校)→明治大学→三菱重工業株式会社 汎用機・特車事業本部(総務部 勤労・安全課)/代表歴:U19日本代表・高校日本代表・関東代表/愛称は中学時代から「どぅー」。6月18日には長男・龍哉(りゅうや)君が誕生した。父となって初めて迎えるシーズンに向け、気合もひとしお。