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#033 榎本 光祐『輝きを取り戻す。』

やればやるほど、ラグビーを好きになる。もっともっとうまくなりたいと思う。ただ、トップレベルでプレーできる時間は永遠には続かない。思い描いていた理想と現実がいつの間にか少しずつずれ始め、夢をかなえるために残された歳月が刻々と減りつつあることに危機感を覚えた時、榎本光祐は意を決して5年間所属したコカ・コーラを退社し、ラグビー王国ニュージーランドへ渡った。2016年、28歳の春だった。

「2015年のラグビーワールドカップに同期が数多く出ていたのを見て、自分も負けたくない、という思いがありました。コーラで活躍して日本代表に入るという目標でずっとやっていましたが、ケガもあったりしてなかなか思い通りにいかなかった。もう一度トップを目指すためには、環境を変えてチャレンジするしかない、と思ったんです」

[写真] 試合中の榎本選手

コカ・コーラ時代のチームメイトだった友人の紹介で、ベイ・オブ・プレンティーのクラブチームに参加させてもらった。トップチームのSHとして半年間に18試合ほど出場し、活躍を認められて国内最高峰の州代表選手権を戦う地区代表のワイダースコッドにも名を連ねる。「そのために貯めていた」という貯金を崩しながら、ほとんどが自分より若い選手たちという環境でハングリーにしのぎを削る日々は、新たな発見に満ちていた。

「周りにいるのはスーパーラグビーでプレーしたい、オールブラックスになりたいという明確な目標に向かって努力している選手たちでした。彼らはチャンスがそう多くはないことをわかっているから、一回一回の練習ですごく出し切るんです。ライバルより一歩でも前に出る、一回でも多くやる、そんな競い合っている感覚がすごくよかった。向こうでは僕のことなんて誰も知らないから、必死にやらなければ何も印象に残らない。僕自身そういう気持ちで臨んだからかもしれませんが、いい刺激をたくさんもらいました」

自分の持ち味を発揮すればニュージーランドでも通用するとわかったし、それによって失いかけていた自信も取り戻した。「以前は長所を消してでも短所をカバーしようとして、どんどん特徴のない選手になっていたんです」。自分に足りないものが何であり、まだまだ成長の余地があることも実感できた。コカ・コーラを退社する時、「ニュージーランドで納得するまでラグビーをやれたら、引退してもいいと思っていた」という覚悟は、もう一度日本でトップを目指す強い意志に変わった。

帰国後、昨シーズンはトップリーグの近鉄に所属し、14試合に出場(先発3、途中出場11)。しかしチームは最下位に沈み、トップリーグから降格することとなった。クラブを背負って戦った当事者としてもう一度トップリーグに昇格させる責任を強く感じていたし、若返りを図るチームの中で後輩たちに何かを残さなければならないという思いもあった。一方で残された時間を考えれば、自分にとってベストと思える環境でとことんチャレンジしたい気持ちもある。さんざん悩んだ末に出した結論は、活動の場を移すことだった。

ついこの前まで所属していたチームとトップチャレンジリーグで昇格を争うことになる三菱重工相模原を新天地に選んだのは、ニュージーランドから帰国した際にまっ先に声をかけてくれたチームだったことに加え、こんな理由からだった。

「長年チャレンジし続けているのに、あと一歩で結果を残せていない。そこに自分の存在価値があると思ったんです。トップリーグに上がれば、さらに伸びるチームだとも感じました。ここには可能性のある若い選手が数多くいるし、今年はコーチ陣も新しくなってみんなが新鮮な気持ちで取り組んでいる。あとはトップリーグという環境さえ整えば、それ以外の部分はすでにそろっているので」

かつて国内最高峰の舞台で戦いながら、その後は長い雌伏の時が続いている。あと一歩で壁を破りきれない状況を、あるいは自分自身になぞらえる部分もあるのかもしれない。

[写真] 円陣を組むダイナボアーズの選手たち

ダイナボアーズの一員となってまだ間もないが、引き締まった表情からは、相模原のグラウンドで過ごす時間が充実していることをうかがわせる。貪欲に成長を求め、一つひとつのプレーに全力を尽くす取り組み方に、周囲からの評価も高い。その一貫した姿勢にグレッグ・クーパーヘッドコーチをはじめスタッフ陣が厚い信頼を寄せているのは、加入からわずか3週間ほどでバイスキャプテンに指名されたことからもわかる。本人は「ニュージーランドから帰ってきて、いつも同じ気持ちでやっているだけです」と謙遜するが、すでに様々ないい影響をチームに与えている。

「最初に聞いた時は、えっ、と思いました。でも光栄なことですし、楽しむしかないな、と。役職がつくのは高校以来。僕の色を出せるチャンスかもしれないので、自分らしくやっていきたいと思います」

[写真] 指示を聞くダイナボアーズの選手たち

チームとしてのターゲットは言うまでもなくトップリーグ昇格だ。今季は自動昇格がなくなり、トップリーグチームとの入替戦に勝利するしか上がる方法はない。ここ数年わずかな差で阻まれ続けてきた壁を越えるために、何が必要なのか。榎本の考えはこうだ。

「僕は去年降格したチームにいたのですが、何が足りなかったかと考えると、本当に細かいところだと思うんです。ダイナボアーズでも練習がスタートした時からずっと言っていますが、フィットネスなら必ずラインを切るまで全力で走るとか、練習間の移動をジョグで動くとか、そうした小さいこだわりを積み上げて、自信にしていくしかない。当たり前にそれができるようになれば、また次のステップに進める。空気感というか、強いチームにあって僕らにはまだない雰囲気、そこには敏感でいたい」

[写真] グラウンドのラグビーボール

この秋で30歳の節目を迎える。高校2年時に飛び級でU19日本代表に選出され、早大でも2年時に大学選手権優勝の一員となるなど、世代屈指のSHとして活躍してきたことを考えれば、現在の状況は決して思い描いていた通りのものではないだろう。一方で今の心境を、「いろんなことを経験し、悩んだり迷ったりして今の僕があると思うので。今がいい時期になってきたんじゃないかという思いもあります」と語る。

あの頃の輝きを取り戻すために。何より残された時間を悔いなく過ごすために。ここ2年はできる限りのことに全力でチャレンジしてきた。だからこそ、今季にかける思いは強い。

「僕の中では、ニュージーランドで学んだことを発揮するのが去年でした。ただその中で、足りないところやもっと伸ばせるところが見つかった。その集大成が今シーズンだと思っています。このチームをトップリーグに上げるのは僕の力じゃない。昇格した時、確実にその一員でいることが自分のミッションです。そのためにはまずパフォーマンスで示すことが大切だし、後輩たちに僕の経験したことを伝えていくことも大事。あとは主体性を持ってラグビーを楽しむこと。人に頼るのではなく、上がるために自分が何をするかを明確にしていけば、望む結果がついてくると信じています」

順風満帆の選手人生からいくつかの逡巡と回り道を経て、ラグビープレーヤーとしての顔は深みを増した。そんな男の存在は、きっと今のダイナボアーズに必要なものをもたらすはずだ。

Published: 2018.07.11
(取材・文:直江光信)

[写真] ボールを保持する榎本選手

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