#037 青木 和也『信頼の砦。』

187センチ、97キロの雄大な体格で最後尾に屹立し、どっしりとしたプレーで攻守に太い芯を通す。タックルを受けても簡単には倒れない強靭なラン。衝突をかえりみず空中へ身を投じる勇敢なハイボールキャッチ。一気に陣地を挽回する特大のキック。インパクトある個性的なランナーが並ぶ今季のBK陣において、調和と安定感をもたらす存在――それが、青木和也だ。

来年の2月で30歳の節目を迎える入社7年目のFB。最初の3シーズンは首を手術したこともあってなかなか出場機会を得られず、その後も出番は回ってくるものの、レギュラーに定着するまでは至らなかった。しかし「今までで一番、体が仕上がっている」という今季は、トップチャレンジリーグの開幕戦から3試合続けて15番で先発するなど、首脳陣の信頼を勝ち取っている。

「コンディションのよさがプレーに出ていると思うし、それが自信にもつながっています」

今季就任したグレッグ・クーパーヘッドコーチは、ニュージーランド代表で活躍した元FBだ。それだけに当初は、「FBに求められるものが多くなるのではないかという先入観もあった」という。実際は、むしろ逆だった。

「同じポジションだからこそわかってくれる部分が多くて、非常にやりやすいですね。コーチとしては、着眼点が違うというか、誰でも言えることは決して言わない。『ここに気づかせてくれるんだ』と感じるような、いい方向に持っていくための助言の仕方がすごくうまい人だと感じます」

もうひとつ、青木にとって刺激になっているのが、井口剛志の加入だ。高校時代から常に世代を代表するFBとして名を馳せてきた1歳下の花形選手がチームメイトになったことは、様々な発見と好影響をもたらしてくれた。

「バチバチのライバル関係だと思われるかもしれませんが、まったくそんなことはなくて。お互いのいい部分と悪い部分を指摘しあいながら、ともに成長できていると思います。今まではいわゆるFB専門の選手が他にいなかったので、わかりあえる存在ができたことは、すごくいい方向に働いています」

チームの現況や雰囲気を尋ねると、ここでもポジティブな答えが返ってきた。おそらくは春、夏を通して着実にステップを積み重ねてこられたという実感があるからだろう。

「練習にしても試合にしても、みんながストレスなく打ち込めているという印象がすごくあります。榎本(光祐)や井口といった経験があって発信力を持っている選手が増えてきたことで、選手同士で話し合う時間が去年までに比べて飛躍的に増えた。自分たちで考えを共有して練習に反映できるようになったことが、いい流れにつながっていると思います。また、今年は自動昇格がないぶん、最終的にどこに勝たなければいけないかというゴール(=入替戦)がはっきり見えているのも大きい。そこに向けて、腹をくくって準備できるので」

戦い方が大きく変わったわけではないが、選手間の意思の疎通が密になったことで、より高い精度で自分たちのスタイルを遂行できるようになった。チームのシステムがうまく回れば、そのぶん一人ひとりの持ち味も引き出される。それによってシステムへの信が深まり、さらに高いパフォーマンスを発揮できるという好循環も生まれ始めている。

「今年はプレーしていてすごくしっくりくるし、個々の強みをバランスよく発揮できていると思います。それぞれが自分のやるべきことをしっかりやれていることで、チーム全体がいい方向に向かっている。ディフェンスでも、相手がミスするまで我慢し続けられるようになってきました」

9月8日に開幕したトップチャレンジリーグでも、昨シーズンからの進歩は随所に表れている。一つひとつのプレーの厳しさが増し、チームのスタンダードは確実に上がった。一方で、序盤戦のターゲットに掲げていたNTTドコモ戦を12-31で落とし、マツダとの4戦目も1点差の辛勝と苦しむなど、まだまだ突き詰めていかなければならない部分があることも明らかになった。

「自分たちが成長しても、周りも成長しているのだから、そこで満足していては勝てない。同じだけの努力では縮まらない何かがあるから、この6年入替戦で負け続けているという結果があるわけで。いかに一人ひとりが高い意識で日々取り組めるか、それを365日に近づけられるかが、大事だと思います」

10月もなかばを過ぎ、いよいよここからが真価を問われる戦いとなる。ひとつの練習、ひとつの試合の重みが増していく中で、クライマックスに向けてダイナボアーズはどのように歩を進めていくのか。青木が描くイメージはこうだ。

「今年は春からずっとチームの軸を変えずに戦えている。今までは、シーズン中にうまくいかなくなると、その軸がぶれることがよくありました。軸をしっかり保ったまま、プラスの要素を付け加えていって、それがどんどん大きくなっていくようにしたい」

今では少数派の仕事とラグビーを両立する社員選手であり、妻も三菱重工相模原に勤務する。応援してくれる人の存在を日々身近に感じているからこそ、胸に秘める思いは特別なものがある。

「ウチの職場は特に熱心に応援してくださる方が多いですし、妻の職場の方々からも応援していただいているので。体調を気にしてもらったり、期待感は常日頃から感じています。だからこそ、早く結果で恩返しをしたい」

中堅からベテランと言われる世代に差し掛かり、ひとつのシーズンに対する意識も徐々に変化してきた。選手としてピークの状態でプレーできる時間は、この先そう多く残されているわけではない。だからこそ、いまだ立ったことのない最高峰のトップリーグの舞台で完全燃焼したいという思いは強い。

「弟(祐樹/LO)がクボタにいるので、早く上がって対戦したいですね。それが、僕が今考える一番の親孝行です。チームに対しても、入社して以来ずっと入替戦で負けてきて、僕はその6回のうち3試合しか出ていないんですけど、3試合に出た責任は感じている。今年こそ、勝ち切りたい」

しんがりが締まれば、チーム全体が引き締まる。最後の砦としての重責を背負って、信頼の男が決戦に挑む。

Published: 2018.10.31
(取材・文:直江光信)