D-DNA 

#023 佐々木 駿『不動の決意。』

現代ラグビーにおけるPRとは、もっとも過酷なポジションのひとつだ。スクラムの最前線で格闘しながら、ボールキャリーやブレイクダウン、ディフェンスでも重労働をこなし、時にはBKラインに加わってパスを放ることまで求められる。役割が多岐に渡るがゆえに、その量と質の差は試合で大きな差となって表れる。世界中のコーチが優秀なPRを渇望する理由が、ここにある。

[写真] 試合中の佐々木選手

このタフなポジションで、佐々木駿は昨シーズンの公式戦全試合で先発を務めるという偉業を成し遂げた。しかもただ出場しただけでなく、ダイナボアーズの長年の課題だったスクラムの大幅な改善の原動力となり、さらには開幕戦からの4試合連続を含む6本のトライもマークしている。チーム最大のターゲットであるトップリーグ昇格は果たせなかったものの、個人的には充実したシーズンだっただろう。

「まずは自分を信頼して使ってもらえたことに感謝していますし、そのぶん結果を出さなければ、という思いが強くありました。セットプレーを安定させたり、ディフェンスで相手をきちんと止めたりといった部分は、ある程度できたかなという感触があります。トライに関しては、よくボールに絡めた証拠かな、と。昔からボールに対する執着心は強いほうでしたし、やっぱりラグビーをやっている以上はトライを取りたいので、そこはよかったと思います」

とりわけ大きな手応えをつかんだのはスクラムだ。昨季はトップリーグでの経験豊富な元日本代表の安江祥光が加わったこともあって、チーム内でのスクラムに対する意識が飛躍的に向上。かつての泣き所は、いまや強みにまでなりつつある。

「スクラムは一人ひとりの勝負というより8人でまとまるイメージを軸にしていたので、独りよがりにならないことを心がけていました。僕が入った頃に比べて大幅によくなったのは間違いありません。単に安定するだけでなく、チームとして強みにしなければならない段階まできていると思います」

[写真] タックルを仕掛ける佐々木選手

いまやダイナボアーズの不動の1番となった男はこの春、さらなる飛躍を期してニュージーランドで武者修行を行なった。SO 渡邉夏燦とともに南島クライストチャーチに渡り、3月中旬から5月半ばまで現地のクラブに帯同。さらに今季のスーパーラグビーで通算8回目の優勝を果たした強豪、クルセイダーズのアカデミーにも参加し、ラグビー漬けの日々を過ごした。

所属したリンウッドクラブではプレシーズンマッチを含め6試合に出場し、多くの貴重な経験を積んだ。地域のクラブラグビーとはいえ、クライストチャーチの最上位リーグのレベルは高い。ケガ明けの調整のため臨時で加入したリッチー・モアンガ(クルセイダーズの正SO)と同じチームでプレーしたり、対戦相手にオールブラックスの現キャプテン、キアラン・リードがいたこともあった。

「みんな真剣にやる中でもラグビーを楽しんでいるな、ということが強く印象に残りました。クラブは火、木の週2回の練習に土曜日が試合で、それ以外の日はクルセイダーズのアカデミーでウエートトレーニングやスキルトレーニングをやるなど、朝から夕方までほぼ一日中ラグビーをやっていました。残念ながらリンウッドは今季不調だったんですが、クラブチームといってもレベルは高いし、味方にも相手にもすごい選手がゴロゴロいた。特にリードはすごかったですね。強いというより、うまいという印象です。ボールタッチだったり、入るコース、スピードだったり、別格でした」

[写真] 突進する佐々木選手

約2か月の留学を通じてもっとも学んだのは、コミュニケーションの重要性だった。すべきこと、してほしいことをきちんと伝え合えれば、チームはスムーズに動く。日本でも再三指摘されてきたことの大切さを、あらためて痛感した。

「僕は英語が全然できないので、自分の言いたいことがうまく伝わらないことが多かった。もっと伝えられていたら、もっといいプレーでチームに貢献できたと思います。逆に言えば、それ以外の部分ではニュージーランドも日本もさほど大きな違いはなかった。帰ってきてからは、よりコミュニケーションを意識するようになりました」

帰国後、チームに合流して感じたのは、仲間たちの意識の変化だった。「絶対に今年昇格したいと思っている選手ばかりですし、みんな今まで以上に必死になっていると感じました。僕も負けてられないな、と」。6月から始まったオープン戦や夏合宿、プレシーズンマッチとゲームをこなす中では、スクラムが試合に与える影響を再認識した。

「自分がPRということもありますが、スクラム次第でゲームの印象まで変わってしまう。トップリーグ勢は強さに加えて、こちらの想定外の組み方で組んでくるといったうまさがある。僕らももっとスキルを磨かなければ、と感じました」

[写真] 喜ぶ佐々木選手

春のオープン戦ではターゲットにしていたトップリーグ勢との試合に勝利することはできなかったが、夏合宿では神戸製鋼から待望の白星を挙げ(30-24)、キヤノンにも20-26と互角の戦いを演じた。長年の悲願であるトップリーグ昇格を果たす上で、『実際にトップリーグチームに勝った』という経験の価値は計り知れない。ここで自信をつかんだことは、いよいよ開幕が目前に迫ったトップチャレンジリーグへ向け、大きな意味を持つはずだ。

トップチャレンジリーグでは、これまで以上にレベルの高い相手と、全国各地の会場で戦うことになる。しかもファーストステージの7試合を終えた段階でトップ4に入らなければ、その時点でトップリーグ昇格の道が絶たれるだけに、一つひとつの試合にかかるプレッシャーはこれまでより格段に上がるだろう。しかしそんな厳しい環境でプレーすることを、佐々木は「楽しみ」と語る。

「いろんな地方の、やったことのないグラウンドで試合をできるのは、選手として本当に幸せなことだと思います。プレッシャーはそれほど感じませんね。トップリーグに上がっても、そこで勝利を積み重ねられなければまた降格してしまいますし、レベルが拮抗していたほうがやりがいもある。本当に、楽しみでしかないです」

[写真] 声援を送るダイナボアーズのファン・サポーター

今年こそトップリーグに昇格するために、ダイナボアーズに必要なものは。そう質問すると、「意識」という言葉が返ってきた。

「本当にトップリーグに上がりたければ、一日一日の練習で、1分1秒もムダにしないはず。本当にそんなチームになれれば、絶対に勝てると思います」

大一番の勝負どころで試されるのは、まさに日々の練習にどんな姿勢で取り組んできたかといった部分だ。そして、いきなり大きくなったりうまくなったりはできないけれど、意識ならすぐに変えられる。その大切さを、佐々木駿はニュージーランドで身を持って体感してきた。

意識とは、すなわちやり切る覚悟。覚悟を問われる戦いが、いよいよ始まる。

Published: 2017.09.01
(取材・文:直江光信)

[写真] ボールを保持する佐々木選手

↑ページの先頭へ戻る