#009 ロドニー・デイヴィス『X-Factor』

母国オーストラリアでは「誰にもつかまえられない男」として広く名を馳せた。一瞬で周囲を置き去りにする走りからつけられた愛称は“ロケット”。100メートル10秒台の快足を誇る世界的なスピードスターである。

2007年、18歳にして13人制ラグビーの強豪クラブであるブリスベン・ブロンコスでプロ選手としてのキャリアをスタートさせた。その後15人制ラグビーに転じ、2009年からスーパーラグビーのレッズでWTB、FBとして活躍。2011年には初優勝の歓喜もピッチ上で味わった。ちなみに日本で開催された2009年のジュニア・ワールドチャンピオンシップ(20歳以下の世界大会)にもU20オーストラリア代表として出場しており、当時のチームメイトには現在オーストラリア代表の主軸を務めるLOロブ・シモンズやCTB/FBカートリー・ビール、ダイナボアーズのPRアルバート・アナエらがいた。

2014年からはフランスのビアリッツでプレーし、今季より三菱重工相模原へ加入。2シーズンで50キャップ100得点、プレーヤーとしてもっとも脂が乗る27歳という年齢での日本行きに、ビアリッツの首脳陣はさぞ頭を痛めたことだろう。ロドニー本人は、移籍の経緯をこう明かす。

「ラグビーの魅力は、世界中でプレーできることです。フランスに行く前から日本に興味を持っていましたし、日本でプレーした友人の選手から、日本の文化のすばらしさや、日本のラグビーの盛り上がりなどを聞いていました。その国でプレーできるチャンスをもらった時、決断に時間はかかりませんでした」

来日前からプレーヤー仲間を通じて日本のラグビーに関する知識や情報はしっかりとフォローしており、LOダニエル・リンディーが高校時代のチームメイトだったこともあって、ダイナボアーズの話もよく聞いていたという。ジュニア・ワールドチャンピオンシップの際に6週間滞在したおかげで、日本での暮らしにも戸惑いはなかった。「あらゆる面で相模原での生活を楽しんでいます」と語る表情からは、心から充実した日々を送っていることがうかがえる。

実際にプレーしてみての、日本のラグビーの感想はこうだ。

「よく言われることですが、非常にクイックですね。フランスは逆にFWメインのスローなゲームが多い。あまりにギャップが大きかったので、慣れるまでは正直時間が必要でした。でも今は日本のペースにフィットしてきたし、自分としては日本のほうが合っていると感じる。プレーすることをとても楽しんでいます」

ダイナボアーズの印象についてはどうか。オーストラリアやフランスのトップクラブに在籍してきた男は、ここでも賞賛の言葉を口にした。

「施設は世界でもファーストクラス。ウエートトレーニングやグラウンド練習のプログラムの組み方も、非常にプロフェッショナルだと感じます。日本人選手のハードワークも印象的ですね。特に社員選手は会社で働いた後に練習に参加して、それでも常に高いスタンダードを維持している。すごいことだと思います」

プロ生活をスタートして以来、仕事をしながらプレーする選手とともに活動するのは初めて。日本独特の企業スポーツという文化に触れ、様々なバックグラウンドを持つ仲間とプレーすることで、多くの刺激を受けていると言う。

「仕事をしながら練習にも100パーセントで取り組んでいる社員選手のことは、本当にリスペクトしています。我々プロ選手は、練習が終われば家に帰って休むことができます。だからこそ私は、簡単に不平や不満を言うことはできない。疲れていたり体が痛かったりしても、同じような状況で働いている人がいるわけですからね。いかに自分が恵まれた環境にいるかを感じさせてくれる存在です。彼らは常にハードワークしますし、チームのためにすべてを出し切る。だから私もそれに対して応えなければならない」

会社の敷地内にグラウンドがあり、同じ職場で働く同僚や頻繁に顔を合わせる選手たちが、社名を背負ってひたむきに戦う。そうした土壌は、ダイナボアーズがこれほど多くのファンから愛される理由のひとつだろう。とりわけ社内のサポートの熱気、応援するファンの数は、国内でも屈指だ。

「北上でのゲーム(11月13日釜石シーウェイブス戦)に多くのサポーターが駆けつけてくれたのは感激しました。こちらが驚くくらいの数で、いかにこのチームがファンから愛される存在であるかを、あらためて実感することができた。そういった意味で、これからの試合はチームが一番サポートを必要とする戦いでもあります。ファンの皆さんと一緒に戦って、絶対にトップリーグ昇格を勝ち取りたい」

トップイーストでは序盤戦こそ出来にムラがあったものの、試合を重ねるにつれてゲーム内容は向上してきた。特に最終戦の日野自動車戦は、持てる力をいかんなく発揮して快勝を収め、いい形で最初の関門を突破した。

「シーズンを通して若干波があったし、自分たちのスタンダード以下のパフォーマンスだった試合もありました。ただ日野戦では、我々が何をできるのかということをきっちり見せられたと思います。自分のパフォーマンスに関しては、まずまずといったところでしょうか。もっといいプレーができた試合もありますが、一番大事なのはこれからの試合ですから、そこへ向けてしっかりと調整していきます」

レッズでは大一番の勝負強さでも知られる存在だった。ビッグゲームにおいて緊迫した局面を打開し、一発で流れを引き寄せられる選手は貴重だ。当然ながらこれからの戦いでも、そうした「Xファクター」としての役割が期待されている。

「もっとも大切なのは、自分の仕事を高いレベルで発揮し続けることです。それにプラスして、周囲のプレーヤーをより高いレベルへ導けるよう手助けすることも、自分の役割だと思っている。ただ、無理して何かをしようとするのではなく、まずは自分の仕事を高いレベルでやることに尽きると思います」

悲願のトップリーグ昇格へ向けた今季の歩みは、ここから先の戦いでその真価を問われることになる。極限のプレッシャーをかいくぐり、最高峰の舞台へのチケットをつかみ取るためのカギはどこにあるのか。数々の修羅場をくぐり抜けてきたフィニッシャーは語る。

「一番必要なのはデザイア、必ず昇格するという強い気持ちです。それが全員になければならない。我々は出せる力をすべて出し尽くします。みんなで一丸となって、昇格を勝ち取りましょう」

大舞台でこそ最高のパフォーマンスを発揮してチームを勝利へと導く。それが千両役者の真骨頂である。

Published: 2017.01.12
(取材・文:直江光信)