#003 ジョージ・コニア『カルチャーを築く。』

頼りになる男がチームに帰ってきた。日本代表の重厚なるCTBとして2003年のワールドカップオーストラリア大会で活躍し、2011〜2013シーズンにダイナボアーズでコーチを務めたジョージ・コニアが、2015年度よりヘッドコーチ(HC)に就任したのだ。

2013年から2シーズンは母国ニュージーランドの強豪地区、ノースランドでアシスタントコーチを務めたコニアHC。3年ぶりにダイナボアーズに戻ってきた経緯を、こう振り返る。

「ニュージーランドに帰国した理由は2つあります。ひとつはより多くの時間を家族と過ごすため、もうひとつは自分のコーチングスキルを高めるためです。ノースランドではアシスタントコーチとして、多くの知識と経験を得ました。その後、ダイナボアーズからヘッドコーチのお話をいただいたのですが、以前ここでコーチとして過ごした経験がとてもすばらしいものだったので、『ぜひ引き受けさせてほしい』と返事をしました」

復帰の決め手となったのは、前回のコーチ時代の盟友であり、同じタイミングで就任した佐藤喬輔新監督の存在だった。

「佐藤監督は常にチームのことを第一に考える人です。前回のコーチ時代に築き上げた彼との信頼関係があるのは大きかった。またチームが大きく変わろうとする流れの中で、ゼネラルマネージャーの武山信行さんが佐藤監督と私に変革を一任してくれたことも、復帰を決意した理由のひとつです。新たなチームを作り上げる機会は、とても大切なチャレンジだと思っています」

ラグビー界の最先端を行くニュージーランドでは、驚くほどのスピードでラグビーが進歩している。実際にその場に身を置いて進歩をダイレクトに体感できたことは、世界最高峰の戦いを知るコニアHCにとっても、貴重な経験だった。

「ゲームに対する理解が深まるとともに、成功を収めるチームを作るためには何が必要か、といったことも学びました。たとえばチームカルチャーの重要性です。揺るぎなきチームカルチャーを作り上げるためには、お互い正直にぶつかり合って、全員でワークハードしていかなければなりません。プレーについてはコアスキルを最優先し、選手たちが理解しやすいようできるだけシンプルにまとめる。それによって選手たちはより高い精度、高い強度で実行できるようになります」

その言葉通り、コニアHCは就任直後から精力的にチームカルチャーを築き上げることに取り組んだ。佐藤監督の考え方が一致していたことに加え、意欲と意思に満ちた選手たちがそろっていたことも、その流れを後押しした。

「このチームの選手はみな人間としてすばらしい人たちです。彼らに必要なのはよりよいラグビーのプログラムであり、賢くスマートにそれを構築しなければなりません。そのためには、しっかりとしたストラクチャーとカルチャーを作り上げる必要があるのです」

1年目の昨季は変革の途上だったこともあってあと一歩でトップリーグ昇格はならなかったが、土台を確立した上でスタートした今季は、ここまで順調な日々を過ごしてきた。春シーズンに厳しいトレーニングを乗り越えたことで、選手個々のコアスキル、ゲームプランやシステムへの理解度は大幅に向上。試合経験を重ねることでチームとしての戦い方が洗練されれば、より迫力あるラグビーを披露できるようになるだろう。

戦力面でコニアHCがプラス要因に挙げるのは、今季より加入した実力と経験を備えるトップレベルの選手たちの存在だ。トップリーグクラブから移籍したHO安江祥光やLOトーマス優デーリックデニイに加え、サモア代表のNO8ファイフィリ・レヴァヴェ、オーストラリアのレッズでスーパーラグビー優勝経験を持つWTBロドニー・デイヴィス、元U20オーストラリア代表のPRアルバート・アナエなど、リストにはそうそうたる顔が並ぶ。彼らのもたらす質の高いプレーとプロフェッショナリズムがチームに与える影響は、計り知れない。

「チームカルチャーを築き上げることと同じくらい、リクルートは重要です。彼らはひとり一人がいい選手である上に、人間性もすばらしい。そうした選手を獲得することが、ラグビーではとても大事になる。また今季の補強でチームのバランスもよくなりました。去年まではBKが目立つ場面が多かったのですが、今年はむしろFWが強みになっています。ラグビーではFWが強ければ、多くのことが有利に進みます」

そうしたビッグネームの加入に刺激を受け、大きく成長を遂げた選手も少なくない。特に目を引く存在としてコニアHCが名前を挙げるのは、LO徳田亮真、SH芝本裕吏、PR佐々木駿の3人だ。

「徳田と芝本の2人は常に全力でプレーし、チームを引っ張ってくれます。彼ら自身のプレーだけではなく、チーム全体のスタンダードを引き上げてくれる貴重な存在です。PRの佐々木も、新加入選手の影響でセットピースが飛躍的に向上し、フィールドプレーもよくなりました。去年から2、3割はレベルアップしたのではないでしょうか。他にも楽しみな選手はたくさんいます。残念なのはSH西館健太主将やWTB椚露輝など、ケガで出遅れている選手がいることですが、彼らも高いモチベーションで復帰に向けて一生懸命取り組んでいます。これから先、必ず来るチャンスで、彼らの力を見せてくれることを期待しています」

今季の最終目標はいうまでもなくトップリーグ昇格だ。そのミッションを果たすために掲げるHCとしてのターゲットを、こう語る。

「選手たちが継続的に成長し続けることです。そのためにはラグビーだけでなく、人間としても成長していかなければなりません。日々の生活や仕事においても、常に自分の持っている100パーセントの力を発揮できる人間を育てていきたい。それができれば、トップリーグ昇格という目標も自然と達成できるはずです」

チームは9月11日に行われた日本IBMとの開幕戦で83-3と大勝し、好スタートを切った。トップイーストを無事に乗り切り、トップウェスト、トップキュウシュウの上位勢と激突するトップチャレンジで1位になれば、2007年度以来となる国内最高峰の戦いへの復帰が決まる。その瞬間を待ち望む多くのファンに向け、コニアHCは意気込みを口にする。

「ダイナボアーズのファンは、ラグビーやこのチームに対して強い愛情を持っている方ばかりです。ここ数年はみなさんにとってもフラストレーションがたまるシーズンだったと思いますが、今年こそチームとみなさんが一体となって、より高いところへ行けると信じています」

数々の経験を携えて帰ってきたコニアHCの強い思いが、チームをさらに加速させる。

Published: 2016.10.13