#001 佐藤 喬輔『覚悟の船出』

誠実な人柄を感じさせるたたずまいに、落ち着いた語り口。感情を表に出さず黙々と仕事に打ち込む姿勢は、現役時代のプレーぶりそのものだ。一方でその胸の奥には、沸き立つばかりの情熱と信念が満ちている。

監督初年度の昨季はトップイーストを首位で通過したものの、入替戦でNECに3-17と惜敗。わずかな差で悲願のトップリーグ昇格を逃した。必勝を期して臨む2年目のシーズンの開幕を目前に控えた今、佐藤喬輔監督は心境をこう口にする。

「去年はまったく違うラグビーのスタイルに取り組んだ1年で、チームのカルチャーを作り直すことにも時間がかかりました。そういう意味で今年は、去年よりいい位置でスタートを切れるという手応えがあります」

2012年度から4季連続トップリーグ入替戦で敗退。いいところまで迫りながら、あと一歩で勝ちきれない。そんな状況を打破すべく、昨季FWコーチから昇格した佐藤監督はチームの変革に着手した。強い組織には、全体を貫く強固な軸、つまり文化がある。まずはそれを築き上げることから始めた。

「これまではスタッフ側の対応が選手によって違ったりしていて、それに対する不満の声もちらほら上がっていた。そこを、どの選手に対しても同じスタンダードで接するようにしました。たとえば今はGPSで練習中の走行距離がわかるのですが、一流の外国人選手にも、日本人選手と同じ運動量を求める。誰に対しても同じ扱いをすることで選手のモチベーショが上がるし、外国人選手も『もっとハードワークしなければならない』という意識が高まる。『TNT』、チームのために、というスローガンも作りました。その姿勢、そのプレーはTNTなのか、ということを常に問いかける。どんな時もチームのためになっているかを考え、規律を持って行動しよう、ということです。さらに今季は、『BREAK THROUGH』というサブスローガンも掲げました。トップリーグの壁、昨年の自分、昨日の自分、そんな様々な壁を越えようという想いを込めています」

戦術面では、ボールの動きに合わせて人が動く消耗度の高い戦い方から、あらかじめ人を配置して戦略的にボールを運ぶラグビーへとモデルチェンジを図った。近年主流となりつつあるスタイルにダイナボアーズらしいエッセンスを加え、自分たちの強みを最大限に生かすことがその狙いだ。

「それまでのシーズンで頭打ちになっているところを感じていて、ガラッと変えるには僕が監督になるこのタイミングがいい機会だろうと。ジョージ(コニア/ヘッドコーチ)の考えと僕のやりたいラグビーが一致していたし、最初から同じ方向性を持ってできたのはよかったと思います。特に今年は“このスタイルをやるからこのポジションにこういう選手がほしい”という戦略的な補強もできたので、すごくワクワクしています」

佐藤監督がそう語る通り、今季はチームに大きな活力をもたらしてくれそうな新戦力が多数加入した。神戸製鋼で長く活躍した元日本代表のHO安江祥光、インパクト抜群のプレーが持ち味のLOトーマス優デーリックデニイ、昨秋のW杯でサモア代表として日本戦にも出場したNO8ファイフィリ・レヴァヴェ、多彩なスキルを有するSO/CTB森田慶良、オーストラリアのレッズで2011年シーズンのスーパーラグビー優勝の原動力となったWTBロドニー・デービスらは、いずれもトップクラスの実力と経験を兼ね備え、主軸として活躍することが期待されている。

「安江は攻撃も守備もアグレッシブで、経験を感じさせる抜け目のないプレーができる。今までのウチにいなかったタイプの選手です。練習に取り組む姿勢や、オフザグラウンドでのふるまいもすばらしい。トップリーグ100試合出場まであとわずかという状況で、『三菱で100キャップを達成したい』と言って来てくれたのはうれしかったですね。トーマスはケガで出遅れて夏合宿からフル復帰したのですが、ラインアウトの読みや対応力のレベルが非常に高い。ボールキャリーも破壊力があるし、実はすごくスマートな選手です。森田、レヴァヴェ、デービスを含め、チームにすごくいい影響を与えてくれています」

新加入以外にも楽しみな選手は多い。特に注目株として佐藤監督が名前を挙げるのは、この2人だ。

「LO徳田亮真は高卒の生え抜きで、試合に出るようになったのは去年からですが、今が伸び盛り。試合を重ねるごとにパフォーマンスを上げています。目立つタイプではないけど体を張れるし、気持ちが強いので外国人相手にもまったく引かずにプレーできる。WTB椚露輝も無名ですが、ジョージが『万全ならニュージーランドのITMカップ(地区代表選手権)でも十分通用する』と語るほどの力を持っています」

強豪国の代表や大学ラグビーの花形もいれば、無名の高卒選手もいる。プロがいれば社員もいて、鳴り物入りで来た移籍選手もいれば、地道な努力で一歩ずつ成長してきた生え抜きも。そうした多様なバックグラウンドを持つ選手が混在していることはダイナボアーズの特徴のひとつであり、佐藤監督は「その多様性が大きなメリットになる」という。

「TNTという軸がしっかりしていれば、それぞれがいろんなアイデアを持ち寄って、チーム力向上につなげることができる。これはダイナボアーズならではの良さだと思います」

そして、様々な立場の選手やスタッフが入り混じる状況でも、ダイナボアーズには不思議な一体感がある。それはきっと、チームを取り巻く環境とも無関係ではないだろう。

「勤務地がひとつなので工場を歩けばラグビー部員がいっぱいいますし、外国人選手もほとんどが地元のマンションに住んでいる。また社内、工場のみなさんの応援が、毎年本当に熱いんです。引退後に社業で活躍されているラグビー部のOBの方たちの広がりもあって、すごくいい形で会社とラグビーが連携をとれている。そうしたことが、チームの一体感につながっているのだと思います」

多くの人々に支えられながら、ダイナボアーズの活動は成り立っている。それを実感しているからこそ、「ラグビーで恩返しを」との思いは強い。

「三菱重工という会社、そして相模原という地域を背負って活動させてもらっているわけですから、ラグビーのフィールドでその名前を広げていくことが、我々の使命だと思っています。また一人のラグビー人としていえば、やるからには最高峰のリーグで優勝争いをするチームにしたいという思いもある。やっぱりトップリーグは充実感が違いますから。ダイナボアーズが唯一トップリーグで戦った2007年シーズン、僕はキャプテンで、結果的に全敗で降格したのですが、高いレベルでプレーできて一戦一戦が本当に楽しかった。あの充実感を、ファンのみなさまにもぜひまた味わってもらいたい」

昨秋のW杯や今夏のリオデジャネイロ五輪における日本代表の活躍で、かつてないほど日本ラグビーが注目され、盛り上がっている中で迎える勝負のシーズン。そこにかける意気込みを、佐藤監督はこう語る。

「昨シーズンは観客数が格段に伸びましたし、会社からの応援の高まりも肌で感じています。ファンのみなさま、社員のみなさまには歯がゆいシーズンが続いていますが、今年は本当に手応えがある。堂々と勝ち抜いて、今年こそ必ずトップリーグに昇格します」

迷いなく発せられた言葉に、決意と自信がにじむ。覚悟を持って挑む戦いが、いよいよ始まる。

Published: 2016.08.20
(取材・文:直江光信)