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三菱重工グラフ graph -Read the future-

No.173 2013. 10

熱人探訪。探究心で宇宙開発へ挑む姿勢制御を支える技術者たち。国産技術が衛星・惑星探査機の一翼を担う

世界で初めて小惑星からサンプルを採取した小惑星探査機「はやぶさ」や、太陽のメカニズム解明に貢献する太陽観測衛星「ひので」。三菱重工はこれらの姿勢制御を行う化学エンジンを手がけている。国家プロジェクトとしての大きな期待を背負いながら、化学エンジンの開発・設計を担うのが高見や浦町だ。ロケットが運ぶ惑星探査機や衛星が宇宙で活躍するには、彼らのような設計者たちの手腕が欠かせない。

防衛・宇宙ドメイン 特殊機械部
写真左:高見 剛史
写真右:浦町 光

新しい可能性を切り開く姿勢制御装置の技術

宇宙科学技術はまさに日進月歩の発展を遂げている。気象衛星、GPS衛星などの人工衛星や宇宙の謎を探求する惑星探査機も多数活躍。

なかでも数々の世界初を成し遂げ、感動的な帰還を果たした小惑星探査機「はやぶさ」の活躍は記憶に新しい。

三菱重工が手がけているのは、それら最新鋭宇宙機の姿勢制御装置(化学推進系(注1))だ。宇宙機は姿勢を制御することで、太陽電池パネルを太陽に向け動力源である電力を確保し、地球との高速通信アンテナが送受信可能になるよう向きの調整を行う。また小惑星への離着陸に使用するなど、宇宙機の活動に絶対不可欠な存在だ。

キャリア23年の高見は開発・設計者として、これまで5基の衛星や惑星探査機、ロケットの姿勢制御などに携わってきた。「JAXA(宇宙航空研究開発機構)ではロケットや人工衛星、探査機などを開発しています。それらはつねに世界初への挑戦であり、私たちはその挑戦の一部を担っています」。

高見とともに入社3年目の浦町も、開発・設計担当として、図面作成から製造後の試験検証、顧客との折衝まで行う。

「この仕事は、ただの設計では終わらない。関われる範囲が広いのが面白いところです。つくったものが形となり、その成果を確認するところまでやりきる。作業は山のようにありますが、やりがいを感じます」と高見はいう。

入社以来、責任範囲の広い業務に誇りを感じていた高見は、2000年、後に有名となるはやぶさを担当することになる。

(注1)触媒で化学分解した燃料ガスなどを噴出し、その反力で姿勢制御する小型エンジン。

地の利を活かして開発された国産初

社内の試験装置で検証を行う様子

設計を担当する高見や浦町も立ち会いの下、社内の試験装置で検証を行う。

2010年、感動的な帰還劇を演じ、世界中から歓声を浴びた小惑星探査機「はやぶさ」。このプロジェクトでも三菱重工は、姿勢制御を担う化学推進系と、主推進機関であるイオンエンジンの燃料供給系(注2)を担い開発・製造を行った。

「化学推進系では、国産初の小推力2液スラスターを実現しました。ゼロからのものづくりは難しいものですが、ここ(長崎造船所)では近接する長崎研究所の協力を得られ、さまざまな局面で助けられました」と高見は当時を振り返る。

はやぶさ完成後には、3カ月間にわたり打上げ前の作業にも携わった。「打上げ前、内之浦宇宙空間観測所(当時)で燃料の充填や、気密・機能確認などの射場作業を行いました。作業の間は、緊張のために手がパンパンに腫れていました。打上げ翌日、それが嘘のように引いたのを見て、それまで感じていたプレッシャーの大きさを改めて実感しました」。 

しかし、姿勢制御装置を担当する高見の仕事は打上げ後も続く。宇宙機は宇宙へ送り出してしまうと、トラブルが発生しても部品を修理できない。そんなときに解決法を探るのも、開発担当者の役割なのだ。「夏の休暇中、JAXAのプロジェクトマネージャーから突然電話がありました。微小姿勢制御用の装置が故障したため、その代用として、化学推進系を使いたいという話だったのです。化学推進系は、微小な姿勢制御は想定していませんでしたが、なんとか代用になればと、急ぎ地上試験用エンジンで試験を行い、可能な限り小さい制御力となる噴射時間を確認しました」。その後、宇宙空間を航行するはやぶさでも噴射を確認し、小惑星イトカワへのタッチダウンに成功。そのときの喜びは今でも忘れないと、高見は語った。

(注2)供給のためのバルブと燃料を蓄える超高圧タンク

化学推進系の信頼性を高め宇宙の解明に貢献していく

写真:はやぶさ

世界で初めて小惑星からサンプルを採取したはやぶさ

写真:宇宙機器のメンバー

はやぶさ2にて化学推進系の開発を行う宇宙機器のメンバー

2014年度に打上げを予定しているはやぶさ2に、高見は開発・設計プロジェクトの管理者として携わっている。そして、高見の下で、今回開発・設計を担当するのが浦町だ。浦町はもともと有人飛行に憧れをもち、大学で航空宇宙工学を学んだ。研究室の学生としてイカロス(注3)プロジェクトに関わり、入社後はすぐに、はやぶさ2の設計担当となった。しかし、そんな浦町も、実際の現場に戸惑ったという。「宇宙機システムの基本的な技術や知識は学生時代に学びましたが、化学推進系としての実際の作業となると、材料適合性や公差など細かな部分を考慮して設計を進めていかなければなりません。現場での仕事の緻密さを実感しましたね」。

サンプル採取への挑戦が大きな使命だったはやぶさに対し、浦町が担当するはやぶさ2では、確実なサンプル採取が至上命題。高い性能を確実に発揮する品質管理が要求される。浦町はいう。「過去に先人たちが打ち上げてきた衛星や探査機には、うまく任務を遂行できたもの、できなかったものも、たくさんあります。うまくいかなかったものの原因を見極め、対策を講じることで信頼性を高め、新しいものをつくっていきたいですね」。

姿勢制御の役割は、衛星や惑星探査機が打ち上げられた後も、その任務を全うするまで続く。2014年度に打上げ予定のはやぶさ2も、その帰還は2020年度。2人の肩の荷が下りるまで先は長い。

「はやぶさでは、タッチダウンによる影響で化学推進系が損傷し故障したため、その機能を全うできませんでした。今度こそは確実に成功できるものをというプレッシャーを感じています。化学推進系が不完全では、探査活動は成り立ちませんからね」と高見は次のチャレンジへの意気込みを語る。浦町は、「惑星探査プロジェクトには新しい試みが多く、やってみたいことがたくさんあります。化学推進系の信頼性を高めることも、そのひとつです。また宇宙に興味をもつきっかけとなった有人飛行の分野では、人体に害の少ない燃料を採用した化学推進系など、開発の可能性を追求していきたい」と夢を膨らませる。

地球から3億キロメートル先にある小惑星イトカワは、通信するのに片道約30分かかる。しかし、はやぶさを宇宙空間の中で見失ったときでさえ、プロジェクトチームはあきらめることなく呼びかけ続け、奇跡的な成果をもたらした。その想いははやぶさ2にも後継される。そこではきっと、高見や浦町があくなき探究心で手がけた機器たちが、目覚ましい活躍を見せるだろう。

(注3)2010年5月21日に打ち上げられた、小型ソーラー電力セイル実証機。

No.173 熱人探訪
防衛・宇宙ドメイン
特殊機械部