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三菱重工グラフ graph -Read the future-

No.170 2013. 1

熱人探訪。ニッチな技術を世界市場へ。研究者と設計者の強力タッグ。ゼロから始めた「常温ウェーハ接合装置」開発の軌跡

三菱重工の先進キー技術開発を担う「先進技術研究センター」。ここではマーケットインテリジェンス活動と数年先を見据えた研究を行い、マーケットを変える新製品の開発を事業本部とともに推し進めている。そこに所属する研究者の後藤は、事業本部の設計者・井手とともに2004年、「常温接合」技術の事業化プロジェクトを始動した。
二人三脚でゼロから製品を模索し、自ら信頼を寄せる技術者たちを呼び寄せ、世界初となる事業を見事に確立。
その製品は半導体デバイスメーカーで使用される「常温ウェーハ接合装置(注)」であった。

技術統括本部 先進技術研究センター/工作機械事業本部 技術部
写真左:技術統括本部 先進技術研究センター 主席研究員 後藤 崇之
写真右:工作機械事業本部 技術部 主幹技師 常温接合装置 プロジェクトマネージャ 井手 健介

(注)ウェーハとは半導体基板の材料として使われる薄さ1ミリメートルほどの円形の板。1枚のウェーハ上に一度に数千個の半導体デバイスが製造される。これを常温で接合すると熱によるひずみが生じず、デバイスの微細化や歩留まり率向上などの利点がある。ウェーハ接合装置は、ウェーハのパッケージングや、異種材料のウェーハを接合した機能性ウェーハの製造などに使用される。

地道な営業活動で、ゼロからニーズを探る

2005年、三菱重工は世界で初めて「常温ウェーハ接合装置」を産業用に開発した。パソコンのメモリや携帯電話のセンサなどの半導体デバイスに使われるシリコンなどのウェーハに、イオンビームや中性原子ビームを照射。表面を活性化することにより常温(室温)で接合する装置だ。これにより接着剤や水、熱も使わず接合できる。従来、主流とされていた装置とは異なり加熱不要のため接合後のひずみがなく、デバイスの品質、製造効率が向上する。この製品の開発は、後藤が井手の所属する工作機械事業本部に「常温接合」技術を持ち込むことから始まった。

しかし当時は二人とも、この技術からどんな製品をつくるべきか、まったくイメージできなかった。「とにかくお客様を回るしかないと100社近く電話し、会ってくれそうな20社ぐらいを後藤と歩き回りましたね」と井手は振り返る。

もともと専門外で不慣れな営業活動も自ら進んで行った。後藤には「技術を最もわかっている者が話さないと伝わらない」という信念があったからだ。だが、日本中を歩き顧客ニーズを探すこの戦略が功を奏したと井手は語る。「それまでは、この技術が適用できる『正の領域』を探してきましたが、逆に、絶対にマーケットとならない『負の領域』が明確になった。例えば、最終製品のチップ自体の単価が低い分野では事業にならないと」。ターゲットは採算性が高く、高精度な接合を常温で成し得てこそ価値がある分野。ターゲットが見えつつあった中、二人は正の領域となるMEMS(注1)を開発する大手デバイスメーカーの担当者と出会った。

(注1)Micro Electro Mechanical Systemsの略。機械要素を含むデバイス。加速度センサ、圧力センサ、インクジェットヘッド、ジャイロ、バイオデバイスなどがある。

正月2日の初試験、“つきましておめでとう!”

写真:接合試験を実施するクリーンルーム

接合試験を実施するクリーンルーム。日頃からメンバーが集まり検討が行われている。

その後に行った接合テストの結果が顧客から高く評価され、2004年6月いよいよ製品化がスタートした。世界初となる産業用の常温ウェーハ接合装置を8カ月以内に納入するため、後藤は技術統括本部の約1,300人いる研究者から信頼を寄せる精鋭を呼び集める。「スムーズにみんなで同じ方向に進めるように目的も情報も共有し、7人のメンバーが全員野球でいろんな知恵を出し合いました。また、もし失敗しても遅れが発生しないように、予備の方法や部品を準備するなど二の手、三の手と対策を講じていました」。

それでも予期せぬサプライヤーの納品遅れで工期は遅れた。だが、初の接合試験を年明け1月2日に行わざるを得ない。顧客への納期を厳守するために、大晦日まで組立て調整を行った。その際、後藤の妻は、出張先で年を越すメンバーを思い、おせち料理を差し入れたという。年内にできる限りのことをやり遂げたメンバーは、社内の食堂で紅白歌合戦を見ながらおせちを食し、2004年を終えた。

迎えた正月2日。見事に試験は1回で成功する。井手は、常温で接合する様子をこのとき初めて見た。「目の前で、2枚のウェーハが常温で強固にくっつき、はがれない。接着剤を使わずに、加熱もせずに付くなんて常識では考えられない。すごく新鮮な驚きでした」。このときの感動は、今でも井手をつき動かす原動力だという。一方の後藤は、「最初につくった実験用装置では、初接合までに2カ月かかった。その経験があり簡単に付かないかもしれないと思っていたので、あっさり接合してホッとしました」。この日井手は『つきましておめでとうございます』と上司に試験報告のメールをしたという。そうして2005年2月、予定通り顧客への納入を終えた。

初号機の成功後、さらに開発費が投入され、PR活動も本格化させる。「どこかの市場をひとつ切り崩せば、事業として広がる予感がありました。常温接合は、いろんな金属や半導体材料を接合できる非常に筋の良い技術。さらに、日本発祥の技術で海外勢に先を越されていない。今まで研究所に事業化の話を持ちかけられ、事業に結び付かなかったものもあったが今回は違う。この技術の素性の良さにほれ込んでいました」。井手の予感は的中し、マイクロマシンMEMS展(注2)で、人垣が二重三重になるほど注目を集めた。そこで、販売パートナーと出会い、顧客との接点も広がった。今では、顧客の開発デバイスで接合を実証するサンプル試験の事例は4,000件を超える。

後藤は、「常温接合はお客様にとっても未知の技術で、デバイスのつくり方や接合の前処理の仕方が確立されていない。だからデバイスの開発過程から深く入り込み、一緒に課題をクリアします。時にはお客様が隠したがることも聞き出し、改善策を伝えなければいけない」という。そのような姿勢が実を結び現在は顧客から、他社と比較したうえで「技術力が格段に違う」という評価を勝ち得ている。

(注2)MEMSや超精密・微細加工、ナノテク、バイオと、応用システム・サービスロボット要素技術に関する世界最大規模の見本市。

新たな市場をリードし、目標は世界の50パーセント

2人の情熱によって研究所の要素技術が、顧客ニーズを満たす先進装置にカタチを変えた。後藤は「研究した技術が製品になって売れるのが、企業における研究人の最終目的です。私はゼロからつくって最終的に売るところまでできた。本当に貴重な経験だった」と振り返る。この成功が若い研究者にとって良きモデルケースとなり、大きな刺激を与えたに違いない。

事業化のミッションを達成した2人は、すでに新しい挑戦を始めている。2012年、世界初となる300ミリメートル対応3次元集積化LSI(注3)用常温ウェーハ接合装置を開発したのだ。その製品への期待を井手は語る。「2014年以降に本格化する市場ですが、世界の主要な半導体メーカーから引き合いをいただいているので確実に受注に結びつけ、最終的には世界中にあるウェーハの半分を当社の製品で接合したい」。

今はまだ海外では認知度の低い常温ウェーハ接合装置を、三菱重工が世界に広める日もそう遠くなさそうだ。

(注3)LSI(大規模集積回路)を積層して、上下のウェーハを貫通電極で接続する次世代のデバイス製造法。平面上で集積度を高める手法は限界を迎えており、その打開策として期待されている。

写真:常温ウェーハ接合装置開発の精鋭たち

最高のメンバーと互いに信頼を寄せる常温ウェーハ接合装置開発の精鋭たち。

写真: 3次元集積化LSI用常温ウェーハ接合装置「BOND MEISTER MWB-12-ST」

2012年に開発された3次元集積化LSI用常温ウェーハ接合装置「BOND MEISTER MWB-12-ST」。LSI用で主流の300ミリメートル大口径ウェーハを立体的に積層できる、常温接合装置の製品化は世界初。

No.170 熱人探訪
技術統括本部
先進技術研究センター/
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技術部