vol.79「中学校の授業と放射線」
九州大学特任教授 日本原子力学会副会長 工藤 和彦 氏

- 平成20年に学習指導要領の改訂が行われ、平成24年度から実施される中学の理科では放射線についても教えることになった。
- 我々は日常生活で自然界からの放射線を微量ながら浴びて生活しているが、そういうレベルは気にするようなものではない。
- わが国の将来を担う児童・生徒たちに資源問題や環境問題を考えてもらうときに原子力、放射線の正しい知識は不可欠。教員の方々への支援も行っていきたい。
「中学校の授業と放射線」
九州大学特任教授 日本原子力学会副会長 工藤 和彦 氏
学習指導要領の改訂の歩み
小中高校の授業は各教科で教える内容を文部科学省が学習指導要領で定め、この条件を満たした検定済み教科書で教えられています。学習指導要領の改訂はほぼ10年毎に行われており、平成10年の見直しでは小中学校で「総合的な学習の時間」という授業が開始されていますし、平成20年にはゆとり教育の見直し等が行われました。
学習指導要領が改訂されても、その内容に沿った教科書が教科書検定を通ってから授業に使われるまでには数年間かかります。今回の改訂は平成20年3月に公示され、小学校は平成23年度、中学校は平成24年度から全面実施されることになりました。

図1 学習指導要領の変遷
日本原子力学会の原子力教育への取り組み
(社)日本原子力学会は原子力の平和利用に関する学術と技術の進歩を図り、原子力の開発発展に寄与することを目的とする日本で唯一の総合的な学会です。私は今、本学会の副会長を務めています。この学会では15年近く前から、初等・中等教育(小・中・高校)の教科書のエネルギー、原子力、放射線関連記述の調査を行う専門の委員会を設けて、不適切な記述を指摘するとともに、資源・エネルギー・環境を柱として教科書の内容充実を図って欲しいとの働きかけを、文部科学省をはじめ関係各方面にわたって行ってきました。この結果、平成8年時点の教科書には「いったん事故が起こると、放射能の及ぼす影響は大きく、放射性物質によって地球はおおわれてしまう」といった極端な記述や、「アメリカのスリーマイル島の原子力発電所の事故でも、周辺地域に多大な放射能被害をもたらした。」といった誤った情報を伝えた記述がありましたが、このような不必要に不安を招くような誤った記述は徐々に減ってきています。
新学習指導要領と放射線
新学習指導要領では中学校の理科の第1分野(物理、化学)の目標の中に「物質やエネルギーに関する事物・現象を調べる活動を行い、これらの活動を通して科学技術の発展と人間生活とのかかわりについて認識を深め、科学的に考える態度を養うとともに、自然を総合的に見ることができるようにする。」ことが示されています。これを具体的に示した解説では、「原子力発電ではウランなどの核燃料からエネルギーを取り出していること、核燃料は放射線を出していることや放射線は自然界にも存在すること、放射線は透過性などをもち、医療や製造業で利用されていることなどにも触れる。」と書かれており、この内容を盛り込んだ教科書が執筆されてこれから検定をうけることになります。

図2 日常生活と放射線
これまでは、大人でも放射線だ、放射能だというとすぐに怖がったり騒いだりしていましたが、それは放射線にはあまり馴染みが無く、普段の日常生活とは無関係だと思っている面が強かったせいではないでしょうか。少なくとも多量の放射線は有害であるが、適切に取り扱えば非常に有用な面もあることくらいは初等教育や中等教育で教えておいて欲しいと思っています。 我々は日常生活で自然界からの放射線を微量ながら浴びて生活していますが、そういうレベルは気にするようなものではありません。宇宙飛行士の若田光一さんは137日間も宇宙に滞在し、1日で我々が地表で受ける放射線の半年分くらいの放射線量を浴びましたが、それで若田さんがガンにかかるリスクが増えたことを問題にするようなマスコミの記事は見たことがありません。
教科書と教師に望むこと
今までも高校の学習指導要領には物理ではきちんと原子力や放射線、原子核について教えるように書かれており、物理の教科書には記載があります。しかし、教科書の最後の方に載っており3年生で物理をとる生徒にとっては理科の先生は駆け足でしか教えないし、3学期だとセンター試験を受ける時には間に合わないのです。高等学校の全国の校長会がその部分はセンター試験には出してくれるなという要望を出して、それが今でも影響しているように聞いています。 実は放射線については、30年前は中学校でも教えていました。今回の新学習指導要領で30年ぶりに復活したことになります。教育は教科書があればそれで良いというものではありませんが、少なくとも日本全国の児童・生徒が共通に学ぶ知識の源が教科書だけに常にその質と内容が問われるところです。 これからも良い教科書が出来ることを期待していますが、教員の方々への支援も考えねばなりません。今は具体的に原子力学会が総がかりで取り組むという体制にはありませんが、学会内のシニアネットワーク連絡会という組織は、原子力界のOBたちが中心となって大学生との対話活動を行っており、教育学部の学生たちとも話をしています。教育学部の学生は、先生の卵たちで、この方たちに原子力エネルギーや放射線のことを正しく理解してもらう活動は時間がかかるかも知れませんがいずれは効果が出てくるものと期待しています。 エネルギー資源に乏しく、すでに世界最高レベルのエネルギー利用効率を達成してこれ以上の省エネルギーが次第に難しくなりつつあるわが国の将来を担う児童・生徒たちに資源問題や環境問題を考えてもらうときに原子力、放射線の正しい知識は不可欠です。
今回の学習指導要領の改訂を一つのチャンスと考えて、放射線に対する正しい知識の普及に一層努めたいと考えています。
工藤 和彦 特任教授のご紹介
| 1971年 | 九州大学大学院 工学研究科 生産機械工学専攻 博士課程修了 |
|---|---|
| 1987年 | 同大学工学部教授 |
| 2007年 | 同大学名誉教授 同大学高等教育開発推進センター 特任教授 |



